オンライン需要の高まりとともに、デジタルマーケティングを遂行できる人材の調達が、多くの企業における喫緊の課題となりつつあります。

とはいえ、施策の遂行を担える優秀な人材の確保は、実際には簡単ではありません。デジタルマーケティングを行うために習得すべき知識やスキルは年々向上しており、優秀な人材がそう簡単には見つけられなくなっているからです。

今回は、こうしたデジタルマーケティングを遂行していく人材の不足を解消すべき理由や人材不足の解決方法などを解説していきます。

「デジタルマーケティング人材不足」現状とその背景

デジタルマーケティングの人材不足を解消すべき理由や人材不足を解決する方法などについてみていく前に、ここでは人材が不足している現状とその背景をみておきましょう。

多くの企業でデジタルマーケティング人材の不足感が生じている

デジタルマーケティング人材（以下、「デジマ人材」と略す）とは、デジタルリテラシーとマーケティングスキルの両方を身につけた人材のことです。

今、このデジマ人材の不足感が多くの企業で顕著に現れています。ビジネス領域の急速なデジタル化の進展、さらにはコロナ禍の影響によるデジマ需要の伸びに対して、施策の遂行を担えるスキルを備えた人材の供給が追いついていないためです。

2023年2月に実施された「デジタルマーケティング人材の採用」に関する実態調査でも、デジマ人材の採用について課題を感じている企業の経営者・役員が過半数に上るという結果が示されています【株式会社ニュートラルワークス調べ】。

消費行動の多様化がデジタルマーケティングの重要性を高めている

データで浮き彫りになったデジマ人材の不足感は、デジタルマーケティングの役割が拡大するのに比例して増大しています。これは、ネットやスマホの普及が消費行動の多様化をもたらし、顧客の属性や嗜好を踏まえたマーケティングが必要になったことが大きな要因です。

デジタルマーケティングとは、多様なデジタルチャネルを駆使して自社の商材を売り込むマーケティング手法を言います。膨大な消費者の行動データを収集・蓄積できる特徴があり、データの活用や分析を通じて顧客ひとり一人に合ったアプローチが可能です。

こうした精度の高いマーケティングは確度向上が見込める反面、高いスキルを要します。市場調査やマーケティングツールの運用、戦略立案などのフローのすべてがオンライン領域となった今では、デジタルマーケティングの充実は多くの企業における差し迫った課題です。

「デジタルマーケティング人材不足」原因

デジタルマーケティングの重要性が高まるなか、それを遂行する役割を担うデジマ人材の不足は日々深刻化する一方です。

ここでは、なぜデジマ人材が不足しているのか、3つの原因を解説していきます。

企業側にデジタルマーケティング人材の育成・採用ノウハウがない

かつて大量生産・大量消費の時代には、国内企業の多くがマーケティングよりも販売活動そのものに重きを置いてきました。マスメディアを介した商材の魅力の画一的な訴求でも、比較的容易に消費者の興味関心を惹くことができたからです。

現在は消費行動が多様化した時代を迎え、デジタルマーケティングの必要性が、多くの企業で徐々に共有されつつあります。しかし、さまざまな分野でのデジマ人材需要の高まりにも関わらず、企業側の社内育成や採用に関するノウハウの蓄積は進んでいません。

ノウハウの蓄積が進まないのは、そもそも打つべき施策の具体像を描き切れていない企業が多いことが主因です。デジマ人材に求めるスキルも明確化しづらくなるため、人材の育成・採用に向けた指導方針の確立や制度の整備などが難しくなるのも必然と言えるでしょう。

質の高いデジタルマーケティング人材の絶対数が足りていない

現状では、質の高いデジマ人材の絶対数が足りていません。

デジタルマーケティングに関する方法論は日進月歩です。その遂行には、デジタルとマーケティングに関する膨大かつ多岐にわたるスキルの習得が欠かせません。ひとかどのデジマ人材として身を立てられるようになるには、一般に長い時間がかかるのです。

デジタル技術特有の変化の激しさも人材不足傾向に拍車をかけています。1度身につけたスキルが、トレンドの変遷により時代遅れになるのは珍しいことではありません。アップデートにより自身のスキルを最適化していける人材となると、数はさらに少なくなるでしょう。

日本国内では不足傾向にあるデジマ人材ですが、実は海外には高スキル人材が数多く存在します。とはいえ、彼らには言語が高い障壁となりかねません。また、国内市場の特性に精通していないと、スキルがあっても確度の高いマーケティングの遂行は難しくなります。

デジタルマーケティング人材の採用にコストをかけられない

多くの企業で採用コストが不足気味なことも人材不足の原因の1つです。需要が増すにつれ、デジマ人材に対する報酬も高騰しています。デジマ人材の平均年収が一般的なそれの約1.3倍になるとも言われており、その分採用コストも高止まりしているのです。

ニーズに適った人材のリクルーティングの難しさも、採用コストを押し上げている要因と言えます。

国内で活躍する高度なスキルを持つデジマ人材が、転職市場などの表舞台に現れることはほとんどありません。彼らの多くが、副業やフリーランサーとしてデジタルマーケティングに携わっているためです。

こうした人材との出会いは、普通は求人広告の出稿だけでは難しいでしょう。そのため、接点として特別なルートを設けたり、人脈づくりに励んだりする企業もみられます。通常の採用活動とは別枠でのこうした取り組みには、それなりのコストもかかるのが一般的です。

「デジタルマーケティング人材不足」解消すべき理由

デジマ人材は、より複雑化する消費者ニーズへの的確な対応や社内のDX推進の効率化に欠かせない役割を果たします。短期的にはもちろん、中長期的に考えても、人材不足は企業にとりマイナスにしかなりません。

ここでは、デジタルマーケティングの人材不足を解消すべき理由を3つの視点から考察していきましょう。

マーケティングのDX推進に欠かせない存在だから

人手不足やビジネスモデルの多様化が著しい時代です。従来のマーケティング手法が通用しづらくなる一方で、近時はビッグデータやデジタルマーケティングの知見を活用したマーケティング工程見直しの動きも目立ちます。マーケティングにおけるDX需要の拡大です。

マーケティングにおけるDX推進の目的は、競争優位性の確立にあります。そのためには、個々のユーザーそれぞれに直に向き合える、デジタル手法のマーケティング戦略の構築が欠かせません。こうした役割の遂行は、スキルの高いデジマ人材でないと難しくなります。

自社に合った施策の立案から遂行までを主導できるデジマ人材の活用により、MAツールを使ったユーザーニーズの精緻な把握が実現可能です。マーケティング工程の自動化により、生産性の向上やコスト削減などのメリットも期待できるでしょう。

オンライン需要の増加により果たすべき役割が拡大しているから

オンライン需要の増加によりその果たすべき役割が拡大していることも、人材不足を解消すべき大きな理由の1つです。

インターネットの普及に伴うマスメディアの衰退により、これまで通用していたマスマーケティングの有効性が低下しました。代わりに登場したのがデジタルマーケティングです。オンライン需要の増加に比例して、ますますその射程範囲を拡大しています。

射程範囲の拡大は、デジマ人材の量的不足をもたらしました。新たな施策の誕生とともに、デジマ人材が身につけるべきスキルの細分化が進んだためです。また、求められるスキルが質的にも高度化・複雑化し、高い専門性を幅広く発揮できる人材も少なくなっています。

デジタルマーケティングの手法は多岐にわたりますが、特に注目すべきは普及が進むスマホ向けのマーケティング戦略です。ビッグデータ収集の機会が格段に増した今、多様化が著しい顧客ニーズの把握に向けたデジマ施策を担える人材の価値が向上しています。

将来的なデジタルマーケティング施策内製化の礎になるから

DXの推進が喫緊の課題としても、基本的には一朝一夕に実現できるものではありません。デジマ人材の育成や採用も同様です。量的にも質的にも習得すべきスキルが増した現下の状況では、自社のニーズに適った人材を確保するのは容易なことではありません。

また、変化の激しいビジネス環境に在っては、DXを進めるデジマ人材の早急な調達を要するケースは珍しくないでしょう。多くの場合、スキルと高い専門知識を持つ外部リソースを使いながら、まずは当面の成果獲得を目指すことが最善の策となります。

ただし、こうした短期的視点とは別に、将来的なデジマ施策内製化の視点を社内に必ず確保しておきましょう。DXの推進に連なるデジタルマーケティングの効率化に向けては、社内リソースによる自社に特化した施策実施の継続が不可欠だからです。

「デジタルマーケティング人材不足」解決方法

デジタルマーケティング人材不足の解消が、多くの企業にとり差し迫った経営課題になりつつあることがよくお分かりいただけたことと思います。

そこで、ここからは、デジマ人材の不足やデジマ業務の滞りなどの課題を解消するための方法を3つご紹介していきます。

1. 社内育成
2. デジタルツールの活用
3. 外注・業務委託

社内育成

既にデジマ人材の育成部署が稼働している企業もあるでしょう。自社に特化した教育カリキュラムに基づく知識・スキルの伝授により、効率的な人材育成が可能です。ただし、そのためには、習得すべきスキルの明確化と質の高い指導者の確保が前提となります。

デメリットは、育成に時間がかかることです。たとえば、リスティング広告の出稿では、時として矢継ぎ早の施策の打ち出しを要します。ゼロからの人材育成では概して太刀打ちできません。結果として、コスパの悪いデジマ施策に堕する可能性も出てくるでしょう。

デジタルツールの活用

自社で本格的な人材育成に取り組むことなく、デジマ業務の効率化を目指せるメリットがあります。たとえばGoogle Analyticsやサーチコンソールなどの活用により、Webサイトの最適化に欠かせないアクセス解析やパフォーマンス分析の実施が可能です。

簡単なアドバイスを受けられる有料ツールもありますが、一般に質の面では期待できません。他方、ABMツールなどのより本格的なものになると、そもそもデジマ人材でないと使いこなすのは難しくなります。根本的な課題解決にはつながらないことも多いでしょう。

自社に合ったデジタルツールを活用することが大切です。

外注・業務委託

デジタルマーケティングは日々進化しています。求められる知識やスキルもどんどん専門化・細分化しています。そのため、社内育成やデジタルツールの活用だけでは、迅速かつ確度の高いデジマ施策を実施していくのは難しいのが実情です。

外注化により、自前のリソースやノウハウをもたない企業でも即効性のあるデジマ施策を打ち出せます。デジタルマーケティングの分野やプロセスごとに特化したスキルを持つ人材をスポット的に活用することで、コスパの高さも追求できるでしょう。

とはいえ、DXは短期的な業務の効率化や生産性の向上だけが目的ではありません。企業が腰を据えて取り組むべき、中長期的な経営課題でもあります。当面は外注を活用するにしても、将来的にはすべてのデジマ業務の内製化を目指しましょう。

「デジタルマーケティング人材不足」人材に必要とされる素養

人材を頭数だけ揃えただけでは、効果的なデジマ施策を遂行できるとは限りません。内製化を図るにせよ、外部リソースを活用するにせよ、求める人材の形をあらかじめクリアにしておくことが大切です。

ここでは、これからデジタルマーケティングを行っていく人材に必要とされる素養を4つご紹介していきます。

Webマーケティングに関する網羅的な知識

内製に基づくデジタルマーケティングの実践では、Webマーケティングに関する網羅的な知識の活用が欠かせません。コンテンツ作成やSEO、SNS・Web広告運用などの基礎を一通り押さえ、全体の流れを把握できている人材を社内で確保しておくことが大切です。

外注の場合、こうした手間は一見不要にも思われます。しかし、これから取り組もうとするデジマ施策の全体像を俯瞰できる人間が社内にいなければ、ノウハウが蓄積されません。将来的なデジマ業務の内製化を考えるのであれば、知識を備えた人材は絶対に必要です。

デジタルマーケティングを取り巻く環境は日々変化し、手法も進化を遂げています。分野に特化した外部人材の活用は、今後も必要になるでしょう。そのため、少なくともスキルのミスマッチリスクを回避できるレベルの判断力は、自前で養っておくのがおすすめです。

データ分析やデジタルツールの活用スキル

データ分析能力も重要です。デジタルマーケティングでは、データに基づいた戦略構築や施策のブラッシュアップが不可欠となります。掲載広告のアクセス数やメール開封率、SNSの拡散率などのデータ分析や改善策の立案ができる人材を確保しましょう。

精度の高いデータ分析に向けては、目的や手法が多岐にわたるデジタルツールの活用スキルが欠かせません。アクセス解析ツールやMAツール、CRMツールなどのメジャーなツールの駆使能力はもとより、初めて触るツールへの適応力の高さも必要です。

トレンドや最新技術を継続的に習得していく姿勢

デジタル領域におけるマーケティング手法は日進月歩です。蓄積されたノウハウを陳腐化させないためには、新たな知見を通じた戦略の再構築が欠かせません。優秀なデジマ人材であるためには、トレンドや最新技術の学びを怠らない向上心の高さも必要です。

AIやIoTといった世の中を大きく変える技術が日々進化を遂げています。今後はデジタルマーケティングでも、ビッグデータや機械学習に関する知識の習得が一層求められるようになるでしょう。情報察知力を磨き、常に知識のアップデートに努めることが大切です。

コミュニケーション能力

他者と連絡を取り合う機会が多くなるデジマ業務では、コミュニケーション能力の高さも求められます。特に重要なのが傾聴力です。こちらの言いたいことを正しく伝えられるだけでなく、相手の要望やフィードバックを真摯かつ的確に汲み取るスキルが欠かせません。

チャットツールやWeb会議システムなど、コミュニケーションのためのさまざまなビジネス用デジタルツールの扱い方に長けている必要もあります。デジマ業務では、ツールを介して他部署や取引先と連絡を取り合う機会も多くなるからです。

外注では、返事や返信の速さも見極めポイントになります。デジタルマーケティングの広告運用では、連絡が1日ずれ込むだけで数十万円～百万円単位の予算の無駄遣いが生じかねません。問い合わせへの「即レス」が期待できる人材か、事前に確かめておきましょう。

「デジタルマーケティング人材不足」外注を成功させるコツ

自社のデジマ業務を外注すると決めたら、デジマ人材の選定に向けて何を準備し、どんなことに気を付ければよいのでしょうか。

以下、デジマ人材の外注を成功させるコツを4つ解説していきます。

あらかじめ理想のマーケター像を描いておく

デジタルマーケティングの手法は多岐にわたります。デジマ人材とひと口に言っても、各々の得意分野が異なるのは珍しいことではありません。まずは施策の目的を決め、そのうえでどのような人材が自社に必要なのかについて、あらかじめきちんと想定しておきましょう。

人材要件の設定は、単に「デジマ施策全般の効率化を図れる人材」といった漠然としたものでは足りません。「30代ビジネスパーソンの新規開拓に向けて、SNSでの同種アカウントの開設や運営実績を持つ人材」というように、可能な限り詳細に設定することが大切です。

こうした詳細な人材要件の設定が、適材適所なデジマ人材の選定につながります。また、設定要件の社内共有により、他部署にも何を頼める人材を採用したのかが一目瞭然になるでしょう。さまざまな社内連携業務の効率化が期待できます。

過去の実績を確認して自社に合った人材を選ぶ

理想のマーケター像を描くことができたとしても、それにふさわしい人材をすぐに見つけられるとは限りません。定量化が難しいデジマスキルを見極めるためには、過去の実績を確認するのがおすすめです。

外注業者の多くが自社サイトに実績を載せています。在籍するデジマ人材の得意分野から、自社が望むデジマ施策の委託ができそうかを判断できるでしょう。また、口コミサイトを見れば、実績だけでなく、利用企業による率直な評価も窺い知ることができます。

人材選定のための面談を実施すると決めた人材に対して、事前にポートフォリオの提出をお願いするのも有効です。その人材への委託が自社の目指すデジタルマーケティングの最終目標の達成に役立つかどうかについて、見極める材料にできるでしょう。

先端知識に明るい人材であるかをチェックする

チェックすべきポイントは過去の実績だけではありません。人材選定では、デジタルマーケティングの先端知識をきちんと身につけているかについても確かめておきましょう。

たとえばSEOです。通常年に数回実施されるGoogleのコアアップデート後には、それまで通用していたスキルが無効化するケースが多々あります。対応力に欠けるデジマ人材に任せていると、集客効果やCVRが一気に低下してしまうことにもなりかねません。

デジタルマーケティングは未だ発展途上にある戦略・手法です。今後も新たな方法論が続々と生み出されていくことでしょう。先端知識のキャッチアップに欠かせない知的好奇心や、最適な戦略を構築できる創造性が豊かな人材を活用することも大切です。

エージェントの活用も視野に入れておく

自社に合ったデジマ人材の選定が難しい場合には、エージェントの活用も視野に入れておきましょう。デジマ人材に特化したマッチングサービスを実施しているエージェントに依頼すれば、自社のニーズに適った人材を手早く調達できます。

エージェントでは、抱える人材全員と面談のうえ、各人が持つスキルや経験、マインドなどを把握しているところも多いです。そのため、ヒアリング時に自社の課題を的確に伝えることで、人材の要件定義から紹介までをワンストップで任せられるでしょう。

ただし、エージェントの活用は人材調達に向けた選択肢の1つに過ぎません。エージェントで必ず最適のデジマ人材を見つけられるとは言い切れないため、他ルートからの人材探しも並行して進めていくことが大切です。

まとめ

DXの推進に向けたデジマ施策の充実や効率化は、今やすべての企業が早急に着手すべき課題です。施策の遂行を担うデジマ人材の不足を解消し、時代に合ったマーケティング戦略の構築とその実践を目指しましょう。

人材不足の解消方法については、即効性やコスパの高さなら外注が一番です。ただし、DX推進の観点からは、デジマ業務内製化に向けた中長期的な人材育成の視点も忘れるべきではありません。