COLUMNコラム

ブログへの正しい引用ルールをご存知ですか?著作権侵害を防ぐ方法を解説!

ライティング

ブログのクオリティを高めようと思ったら、引用は有効な手段の1つです。公式HPから引用できれば記事作成の手間を大幅に減らせますし、内容についての正確性の向上が見込めるでしょう。論文からの引用であれば、専門性や権威性の獲得も期待できます。

とはいえ、引用は著作権法により例外的に認められる行為です。引用元が著作物である限り、引用行為には常に著作権侵害の可能性が付きまとうことは否定できません。

本コラムでは、ブログへの正しい引用ルールと著作権侵害を防ぐ方法について、著作権法の条文や判例の趣旨に沿って詳しく解説していきます。

後半ではブログへの引用の際に気を付けるべきポイントを示し、さらには近時急速に注目度を高めつつある、AI生成コンテンツがもたらす著作権侵害の可能性についても考察を加えています。

読者のみなさんが引用ルールはもとより、その背後にある著作権法が守ろうとしている権利、さらにはその権利から生じるメリットや社会的な価値についても理解を深める一助にしていただければ幸いです。

ブログで引用を行うにあたりまず押さえておくべきこと

ブログで引用を適切に行うためには、引用とは何か、すなわち引用の概念を正しく知っておく必要があります。

以下、概要、ルールの趣旨、似た概念との差異の順に、引用にまつわる基本事項をみていきましょう。

そもそも引用とは?

引用とは、紹介や参照、論評などの目的で、自身の制作物の中に「他人の著作物の原則として一部を採録すること」です(パロディ・モンタージュ写真事件最高裁判決より)。

著作物には著作権が発生します。他人の著作物の利用には、権利者による許諾が欠かせません(著作権法第63条1項)。そのため、著作物の無断での利用は、著作権侵害にあたる違法な行為とされてます。

引用とは、こうした他人の著作物の利用を例外的に認めるルールです。

著作権法第32条1項では、「公表された著作物は、引用して利用することができる」と定めています。よって、適切な引用行為である限り、著作権者の許諾を得なくても法律上の責任を問われることはありません。

では、引用ルールは何のためにあるのかを、次にみていきましょう。

引用ルールは何のためにある?

人が自らの才覚で創り上げた知的財産は固有の権利として尊重される、と考えるのが近代法の基本原理です。著作権は数ある知的財産の中でも、特に保護の必要性が高い権利の1つと考えられています。それは、近時毎年のように改正されていることからも確かに窺えます。

とはいえ、著作物の使用に関して常に著作権者の許諾を要するとすれば、いかにも不便です。本来自由であるべき表現活動の過大な抑制にもつながるでしょう。結果として、学問や各種コンテンツ文化の発展を妨げることにもなりかねません。

こうしたデメリットを阻止するため、「権利制限規定」としての引用ルールが法定化されています。

引用の他、そもそも使用対象が著作物でなかったり(著作権法第2条1項1号、第10条2項など)、「転載」が許されたり(第32条2項、第39条、第40条)する場合も、著作権侵害にはなりません。

引用は転載やコピペとどう違う?

転載とは、引用の範囲を超えて既存出版物中の文章や図表などを複製し、別の出版物に移動・公表することを言います。複製部分の割合が大きかったり、他者の作品を丸ごと掲載したりすることが該当します。

引用では、法や判例が示す条件・ルールに則って行われる限り、著作権者による許諾を得る必要はありません。これに対して転載では、国や自治体が公開している調査統計資料や新聞・雑誌の時事問題に関する論説などを除き、著作権者や出版権者の許諾が必須です。

コピペとは、他人の著作物を「自作したコンテンツ」として公表することを指します。コピペは、パクリや盗作と同視されるべき犯罪行為に他なりません。悪質性が強いと判断されれば、著作権者の告訴を待たずして、民事・刑事の両責任を負わされる可能性も出てきます。

ブログへの引用で保護される著作権とは?

さて、ここまでの引用や引用ルールの説明では、著作権という用語を当たり前に使ってきました。日常的に馴染みのある言葉ではありますが、その法的な意味についてはよく知らない方も少なくはないでしょう。

ここでは、ブログへの引用で保護される権利である、著作権について解説していきます。

著作権は著作者に付与される2つの権利のうちの1つ

著作権が有する権利は、次の2種類に分けられます。

  • 著作財産権
    著作物から生じる財産的価値を保護する権利
  • 著作者人格権
    著作者本人の人格的な利益を保護する権利

著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望を害する方法での利用を禁止する権利の4つから成ります。「人格」、すなわち名誉や信用など人の精神的側面に関する利益が保護法益となるため、他人への譲渡・相続はできません(著作権法第59条)。

他方、「財産」を保護法益とする著作財産権は、 他人への譲渡や相続が可能です(第61条第1項)。そして、一般に言われる「著作権」とは、この著作財産権を指します。

引用における両者の関係性には注意が必要です。

著作権が制限される場合でも、著作者人格権は制限されません(第50条)。そのため、引用の仕方によっては、著作者人格権の侵害に問われることも稀にあります。

例えば、断片的な引用のケースです。この場合著作者の主張が誤解されかねないと判断されれば、たとえ著作財産権は侵していなくても、同一性保持権(第20条)の侵害や、著作者の名誉声望を害する行為(第113条11項)に当たる可能性があります。

著作権の概要

先述の通り、著作権とは、著作物から生じる財産的価値を保護する権利を指します。ただし、実際には著作権という単一の権利がある訳ではありません。複製権や上映権、公衆送信権や翻訳権など、10以上の支分権の総称として「著作権」という語が使われています。

著作権は、著作物の創作時に自動的に生じます(著作権法第51条1項)。よって、権利取得にかかる官庁への届出や登録などは要りません。また、著作権の保護期間は、原則として著作物の創作時から著作者の死後70年を経過するまでです(第51条2項)。

支分権ごとに保護法益や罰則が異なる著作権ですが、近年は著作物の保護に関わる法律が全般的に厳罰化しています。意図的な著作権侵害は、民事だけでなく刑事責任も問われます。刑事罰は懲役と罰金の併科もあり得るため(第119条1項)、特に注意すべきでしょう。

著作権法で守られる著作物

著作権法で守られる著作物とは、人が独自に「思想又は感情を創作的に表現したもの」で、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を言います(著作権法第2条)。

小説や論文、楽曲やその歌詞、絵画や彫刻は、著作物の代表例です。その他、建築物や地図、映画や写真など、創作性が認められるものも著作物に該当します(以上第10条1項)。

著作物であるためには、第1に創作性が不可欠です。

そのため、事実を伝えているに過ぎない「雑報及び時事の報道」(第10条2項)や、著作物の作成に使用したプログラム言語(第10条3項)などは著作物に該当しません。

また、法令や判決は、著作権法上「権利の目的となることができない」著作物とされています(第13条)。

第2に、条文中の「表現したもの」から、表現物として未だ具現化されない「アイデア」が著作物に当たるかが問題となります。

裁判所は、自由な表現活動を守る趣旨から、著作物性を認めていません(発光ダイオード論文事件、数学論文野川グループ事件など)。

とはいえ、実際には「表現物」と「アイデア」の区別は容易ではありません。また、昨今はSNS上でパクリの事実が拡散され、炎上に至るケースも散見されます。法的に問題なくても、モラル的に拒絶されるリスクがあることは、常に意識しておくべきでしょう。

著作権法で守られるのは、「日本国民の著作物」(第6条1項)と「最初に国内において発行された著作物」(第6条2項)です。加えて、「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」(第6条3項)も、著作権法の保護対象になります。

著作権侵害の要件

判例が示す著作権侵害の要件は、次の2つです。当該行為の著作権侵害性は、両者を満たしていると判断された場合に限り、認められることになります。

  • 類似性

文字通り、既存の著作物と似ていることを意味します。ただし、単に似ているだけでは足りません。「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」、すなわち元作品の個性を表す独自表現がそのまま利用されていると感じられることが必要とされています。

過去の裁判例では、具体的に表現される前のアイデア、あるいは表現であっても独創性の感じられないありふれた表現などにつき共通しているに過ぎないケースでは、類似性を否定しています(後者につき「けろけろけろっぴ事件」)。

  • 依拠性

既知の著作物を参考に、あるいは模倣して創作したことを指します。創作者の主観面に関わる事柄のため、類似性とは異なり、その証明は必ずしも容易ではありません。元作品へのアクセス可能性や表現の酷似性、元作品の知名度などから間接的に推認するのが一般的です。

依拠性に関しては、著名な判例があります(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件判決参照)。本ケースではある歌謡曲の既存作品に対する依拠性が争われたものの、「偶然の暗合」として認められず、結果としてその著作権侵害性が否定されています。

創作と同時に生じる著作権では、効力発生要件としての登録が必須ではありません。にもかかわらず、意図せずして過去の著作物と似た作品を創った場合にまで著作権侵害の責を負わせるものとすれば、本来自由であるべき創作活動を萎縮させてしまう可能性があります。

本判決は、著作者らの権利保護とともに新たな創作活動の促進も目指す著作権法の趣旨に立ち返って、依拠性の法的根拠を明らかにしたものと言えるでしょう。

引用は著作権法上にいう「複製」にあたる

引用は、著作権法における「複製」にあたります。複製とは、「複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」を言います(第2条1項15号)。

複製は、本来「著作者」だけが持ち得る権利です(第21条)。許諾なき複製は彼らの権利を不当に制限・侵害しかねません。しかし、著作物の自由な利用がもたらす多大なメリットに鑑み、例外的に権利者以外にも複製が認められています(第30条〜第47条の8)。

引用については、第32条1項で、「公正な慣行」を踏まえた「目的上正当な範囲内で」の実施が可能であることが示されています。ただし、引用にあたっては、必ず引用元を明示しなければなりません(第48条)。

引用ルールの詳細については後述します。

その前に、次項では、ルールに反する引用を行って著作権侵害で訴えられた場合のリスクを押さえておきましょう。

ブログへの引用で著作権を侵害した場合のリスク

著作物の無断使用により著作権侵害に問われると、民事・刑事の両面から責任を負わされる可能性があります。

それだけでなく、自身のブログがSEO的に深刻な影響を被る、ブログ自体を閉鎖しなければならなくなるなどのケースも出てくるかもしれません。

以下、ブログへの引用で著作権を侵害した場合の4つのリスクを解説していきます。

民事上のペナルティ

著作権侵害の際に課され得る民事上のペナルティは、次の通りです。

  • 侵害行為の差止請求(著作権法第112条1項)
  • 損害賠償請求(民法709条)
  • 不当利得返還請求(民法703、704条)
  • 名誉回復等の措置請求(著作権法第115条)

引用に関する損害賠償は、使用した文章や画像のライセンス料として請求されるケースが多くなっています。

著作権侵害による損害賠償が認められたケースを1つ紹介します。

オークション業者が、著作権者に無断で出品カタログに美術品の画像を掲載して販売に用いた行為が、引用に当たるかが争われました。

判決は掲載を引用とは認めず、業者に52万円の支払いを命じました。判決理由として、業者自身の記載部分がごくわずかで、美術品の画像が主たる部分になっていることが挙げられています(東京地裁平成21.11.26判決)。

刑事上のペナルティ

著作権侵害は、民事責任だけでなく刑事罰も対象です。故意による侵害行為に対しては、厳しい罰則が科されます。

個人に科される刑は、「10年以下の懲役」か「1,000万円以下の罰金」のいずれか、もしくは両方です(著作権法第119条1項)。業務上の著作権侵害には両罰規定が設けられており、法人にも最大で3億円の罰金が科されます(第124条1項)。

また、引用に際して出所を明示しなかった場合にも、50万円以下の罰金が科されます(第122条)。

著作権侵害に対する罪は、原則として親告罪です(第123条1項)。著作権者ら権利者による告訴がなければ、侵害行為者を著作権法違反の罪に問うことはできません。

SEOへの深刻な影響

引用に関する著作権侵害は、SEO面での深刻な影響をブログにもたらしかねません。

特に多大なダメージにつながる影響は、次の2つです。

  • コンテンツの検索結果からの削除
    DMCAに則った著作権侵害コンテンツの検索結果からの削除申請は、日本からも可能です。削除されたからといってコンテンツそのものが消される訳ではありませんが、ブログが上位表示される可能性は著しく阻害されるでしょう。
  • ブログ自体の信頼性の低下
    著作権侵害の事実は、ブログ自体の信頼性の低下にも直結します。検索エンジンによる警告や、サイトを開いた際に出される「安全ではありません」といったメッセージがお馴染みです。これらは、ユーザーをしてブログから離脱させる理由としては十分と言えるでしょう。

近時は、検索エンジンも質の高いオリジナルコンテンツを高く評価する傾向にあります。SEO的観点からも、適切に引用する、重複コンテンツとみなされやすい転載はなるべく避けるなど、著作権を強く意識したコンテンツ作成に努めることが大切です。

ブログ閉鎖

仮にブログ運営者側が著作権侵害を指摘されたコンテンツを削除したとしても、著作権者らにより、ブログに対する民事上の差止請求が出される可能性は十分あります。「1度ルールを破ったのだから、多分またするだろう」という訳です。

著作権の侵害に対しては、プロバイダやサーバー会社も敏感にならざるを得ません。侵害を放置していると、著作権者らから損害賠償請求を受ける可能性があるからです(プロバイダ責任制限法第3条)。

多くの場合、プロバイダらによる違反コンテンツの削除や該当ページの掲載差し止めなどの措置が速やかに行われます。そうなれば、損害の発生を避けたいブログ運営者側が削除する・しないにかかわらず、遅かれ早かれそのブログは閉鎖に追い込まれるしかありません。

著作権法が規定するブログへの引用が認められるための3要件

引用とは、本来であれば罪に問われかねない、他人の著作物の無断使用を例外的に認めたルールです。そのため、法的に正しい引用として認められるためには、著作権法第32条1項で示される3つの要件をすべて満たしている必要があります。

以下、著作権法が求める3要件の内容を具体的にみていきましょう。

公表された著作物であること

著作権法第32条1項より、「公表された著作物」であれば引用が可能です。

「公表」とは、著作物の発行、もしくは著作権者や著作権者から許諾を得た者が「上演、演奏、上映」等の方法で「公衆に提示」することを言います(第4条1項)。誰もがアクセス可能なWebサイトへの掲載も公表です(第2条1項9号の4)。

「公衆」には、不特定の者はもとより、「特定かつ多数の者」も含まれます(第2条5項)。ここでは、多数の者の具体的人数が問題となりますが、文化庁はおおよそ50人超を多数と想定しているようです。

なお、公衆の範囲を特定多数の者にまで広げた趣旨は、「対象が会員に限られているから不特定の人向けではない」といった脱法行為を防ぐことにあります。そのため、家族やごく親しい友人は公衆とは言えず、著作権も働きません。

公正な慣行に合致すること

著作権法第32条1項が要件化している「公正な慣行」についての具体的な基準はありません。実務では、著作物の種類や引用の目的などを総合的に考慮して、社会通念上妥当であるかが判断されます。

例えば、学問の世界では、自身の論文に他人の文章を引用して学説の批評に役立てたり、自説を補強したりが普通に行われています。こうした引用が一般的な社会感覚から逸脱していない限り、公正な慣行に合致しているとみなされることになるでしょう。

なお、公正な慣行に合致しているか否かの判断には、出所の明示(著作権法第48条1項1号)も考慮されるとした判決があります(『絶対音感』事件控訴審)。ケースバイケースですが、引用の際には、誰のどの著作物から引用したのかを明示しておく方が確実です。

「引用の目的上正当な範囲内」で行なわれること

引用は、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われなければなりません。

正当な範囲内であるか否かにつき、判例や古い裁判例では、引用範囲の明確性、自己コンテンツと被利用著作物との主従の関係性の存在という2つの基準で判断していました(パロディー・モンタージュ写真事件最高裁判決、藤田嗣治絵画複製事件東京高裁判決など)。

しかし近時の裁判例では、正当な範囲内とは「社会通念に照らして合理的な範囲内のもの」であると解されるようになっています。これは、先の「公正な慣行」判断における、社会通念重視の解釈と軌を一にするものと言えるでしょう。

具体的には、「公正な慣行」への合致性に加え、利用目的、利用の方法や量・範囲、利用される著作物の種類や性質、著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合的に考慮すべきである旨が示されています(美術品鑑定証書引用事件、沖縄うりずんの雨事件も同旨)。

他人の著作物をブログに引用する際に守るべき5つのルール

引用は、著作権法で例外的に認められた行為です。そのため、不適切な運用により権利者の著作権がみだりに侵害されないよう、著作権法や判例によって厳格なルールが確立しています。

ここでは、先に触れた著作権法第32条1項で示される3要件とは別に適用されることの多い、5つのルールを解説していきます。

なお、このうち最後に紹介する非改変性以外の4つは、文化庁が定める「引用における注意事項」で示されているものです。

引用の必要性が認められること(必然性)

第1に、他人の著作物を引用する必要性が求められます。

必要性は、単にその人の文章や作品を自身のブログに載せたいといった動機では足りません。引用しなければコンテンツとして成り立たなかったり、著しく説得力に欠けたりする状況にあることが求められます。

例えば、自説の正しさを証明するための外部データの記載であれば、引用の必要性が認められやすいでしょう。また、絵画のレビュー記事への複製の掲載も、客観的に見てどのような作品なのか読者に伝える範囲に留まっていれば、引用の必要性が認められると解されます。

判例は、こうした「必然性」を独自に採り上げてルール化してはいません。ただし、著作権法第32条1項の「公正な慣行」「正当な範囲内」要件の判断にあたり、引用の必要性を厳しく見極めた裁判例がみられます(発信者情報開示請求事件(東京地判R4.5.26))。

引用元が明示されていること(明示性)

第2に、引用の際には、引用元(出所)を明示しなければなりません(著作権法第48条)。具体的には、ブログ上で引用部分の著作者名や著作物の題名、出版社名や掲載ページなどを明らかにしておく必要があります。

この「明示性」は、先にみた法第32条1項に示される、引用が認められるための「要件」ではありません。異なる条文に規定されていることからも明らかなように、3要件をクリアして適法性が認められた複製行為に対して課される、別のルールになります。

著作権は原則として親告罪です。そのため、3要件を満たす複製行為である限り、出所の非明示をもって即著作権侵害の罪に問われる訳ではありません。とはいえ明示しなければ、法122条の規定により、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

なお、既述のように、この明示性の有無を「公正な慣行」に対する合致性判断の1要素として考慮した裁判例もみられます(前掲『絶対音感』事件控訴審判決参照)。ケースによっては、適法性判断3要件と同視すべき、重要なルールたり得ることに注意すべきでしょう。

引用部分と自己の著作物が峻別されていること(明瞭区別性)

第3に、引用部分と自己の著作物とが視覚的に峻別されていなければなりません。裁判例でも、両者が「渾然一体となって全く区別され」ないような場合、引用として認められないとしたものがあります(前掲沖縄うりずんの雨事件)。

他人の文章や画像を、あたかも自分自身が制作したかのように使用・掲載することは許されません。ケースによっては、コピペとみなされる可能性も出てくることには要注意です。

引用部分をオリジナル部分とはっきりと区別する方法としては、以下が挙げられます。

  • 引用部分をカギ括弧(「」)、ダブルクォーテーション(“ ”)などでくくる
  • 引用部分の文字を太字にしたり、色やフォントを変えたりする
  • 引用部分を枠で囲ったり、背景色を変えたりする

ブログであれば、

(引用タグ)を使うのが一般的です。検索エンジンに対しても引用部分を正しく伝えられるため、SEO的にも有効な手法と言えます。

自己の著作物と引用部分の主従関係が明確であること(附従性)

第4に、自己の著作物と引用部分との主従関係(附従性)も明確でなければなりません。すなわち、著作権法により認められる「引用」とは、量的にも質的にも他者の著作物を自己制作部分の補完目的で使用・掲載している場合に限られます。

裁判例でも、コンテンツの大半を引用部分が占め、自身のコメントがごく僅かなケースでは附従性を認めていません(中田英寿事件東京地裁判決)。誰が見ても引用と分かるだけでは足りず、引用コンテンツの配分割合についても配慮が必要だとされたのです。

ブログにおける引用の量的目安は、多くても記事全体の1割程度と言われます。質的関係性も考慮されるとはいえ、オリジナル部分・引用部分間に圧倒的な量的差がないと、一般に引用とは認められないでしょう。

こうした附従性を厳格に解すれば、近時流行りのバイラルメディアの大半が引用性を否定される可能性があります。SNSが定める利用規約への同意を著作権利者たる投稿者による「黙示の許諾」とみなす見解も有力ですが、現時点では判断が分かれるところです。

なお、写真・絵画について、附従性を要件化している判例や裁判例があることは既述のとおりです(パロディー・モンタージュ写真事件、藤田嗣治絵画複製事件参照)。

引用部分を改変していないこと(非改変性)

第5に、引用部分の勝手な改変は許されません。

著作者は、自身の意に反して自己著作物の内容やタイトルを改変されない権利を有します(著作権法第20条1項・同一性保持権)。そのため、著作者の許諾を得ずに、引用部分の文章を書き換えたり、画像の加工やトリミングを行ったりは許されません。

引用元の文章が長いケースでの、前略や中略などを明示した上での不要部分の割愛は認められています。ただし、原文の意味や意図が誤って伝わりかねない、恣意的な要約や修正・削除の類はNGです。

誤字や脱字、明らかな記述ミスについても、そのまま記載する必要があります。この場合、誤っている箇所に、括弧書きやルビで「ママ」と記しておくのが一般的です。

なお、学校教育の目的上やむを得ないと認められるケースでは、引用文章中の語句の変更や改変が認められています(第20条2項)。

文章や画像のブログへの具体的な引用方法

ここまで、引用行為と著作権・著作権法との関わりを中心にみてきました。

では、実際にどうやって引用を行っていけばよいのでしょうか。以下、文章や画像など、著作物の種類別にブログへの引用方法や注意点を解説していきます。

他サイトから文章を引用する

他サイトから文章を引用する場合、まずは引用部分を自身が制作したコンテンツと峻別して記載しなければなりません。一般的には、blockquote処理により一見して引用と分かるデザインにして、そのうえで引用元を明示するという流れになるでしょう。

次に引用元の記載ですが、方法にこれといった決まりはありません。引用元が明らかになっていればOKです。

記載事項例

  • サイト名(掲載メディア名)
  • 著者名
  • 記事のタイトル
  • 記事の公開日時や最終更新日時
  • 記事ページのURL
  • 最後に閲覧した年月日

URLは、記事名にリンクを張るのが基本です。ただし、URLだけでそれと分かる有名サイトや公共性の高いWebサイトからの引用では、URL自体をリンク化しても構いません。いずれにせよ、信頼性の高いコンテンツからの引用は、高いSEO効果も期待できるでしょう。

閲覧年月日の記載は、引用部分が本当に存在したコンテンツであると証明する際に役立ちます。Webに上げられる情報の宿命である、削除・更新などのリスクに備えられるでしょう。プリントアウトしておけば、資料として永続的な活用も可能です。

書籍から文章を引用する

書籍から文章を引用する場合も、他サイトからの引用時と同様、引用部分の明確さと引用元の明記が求められます。

記載事項例

  • 著者名
  • 書籍のタイトル
  • 出版社
  • 出版年
  • 引用部分が掲載されているページ番号や章名

これらのうち、著者名とタイトルは、記載が必須です。また、出版年の記載は、情報の鮮度を示す目安としても機能します。

一般に書籍は紙数が多くなりがちです。改訂の際には、引用部分のページ番号が変わるかもしれません。ページ番号や章名の記載は、こうしたケースにおける引用元の確認作業の効率化に寄与するでしょう。

なお、書籍からの引用では、これらの事項の前に「引用:」や「出典:」などと付けることが多いです。引用が他人の著作物からの複製行為を言うのに対して、出典は引用元である著作物そのものを指します。適宜使い分け、分かりやすい記載を心掛けましょう。

画像を引用する

画像を引用する場合も、オリジナル部分と区別された形での使用が明らかになっていなければなりません。引用画像のすぐ下に「出典:xxx」という形で引用元を明記するのがおすすめです。

引用画像の直リンクは、リンクされた側のサーバーに過度の負荷をかけかねません。禁止しているケースも多いため、注意しましょう。直リンクを禁ずるサイトからの画像の引用は、著作権者の許諾を得て、自身のサーバーにアップロードしてから行うのがマナーです。

著作権フリーの画像素材を引用しようとする場合にも注意が必要です。フリー素材も著作物であり、条件に則った利用が認められているに過ぎません。商用利用や加工の可否、クレジット表記の必要性・ルールなどを利用規約で確認することが大切です。

参考文献を記載する

引用していなくても、ブログの執筆に多大な影響を及ぼした情報源があるかもしれません。この場合、決まりではないものの、参考文献として記載しておくのがおすすめです。コンテンツの補強になったり、盗作疑惑を免れられたりする効果が期待できます。

一般に参考文献となるのは、書籍や雑誌、ウェブページなどでしょう。ブログの閲覧ユーザーが後でそれらの文献にあたれるよう、それぞれの媒体や学術領域などに合った記載を心掛ける必要があります。

最低限欠かせない記載事項は、他サイトや書籍から文章を引用する場合と同じです。著者名、書籍や論文のタイトル、サイト名やURL、出版・更新年などを記載しておきましょう。

学術領域別でみると、社会科学系の論文については、標準的なフォーマットである「APAスタイル」に沿って参考文献を記載するのが基本です。APAスタイルは研究論文の出版業界でも通用している書式のため、ブログでの参考文献の記載にも使えるでしょう。

科学技術に関する執筆であれば、「SIST 02」での記載がおすすめです。APSスタイル同様、情報源に関する基本的な記載事項を漏らさず示せます。

参考文献は、引用部分に近接する箇所に記載するのが原則です。ただし、引用部分の数が多い場合には、脚注として最後にまとめて記載する方がよいでしょう。文章の流れが遮られて、肝心の情報が伝わらなくなる弊害を避けるためです。

より確実なブログへの引用に向けた実践ポイント10選

ブログへの正しい引用ルールの基本的な解説は以上です。引用は著作権法における例外規定として特に認められる行為ゆえ、ルールの枠内での厳格な運用が求められることが理解できたことと思います。

ここでは、「より確実なブログへの引用に向けた実践ポイント」について、10の視点から解説していきます。

引用元の独自ルールの有無は必ず確認しておく

引用はルールに則って行われる限り、本来誰もが自由に行えます。著作権者の許諾を得る必要もありません。とはいえ、引用元によっては使用料が発生したり、営利目的での利用は認められなかったりする独自のルール・条件が設けられていることがあります。

こうした独自ルールは、著作権法上妥当と認められるものから、ケースによっては引用に対する不当な制限になり得るものまでさまざまです。遵守すべきいわれのないルールを課されないためには、その法的根拠や趣旨・正当性などをきちんと理解しておく必要があります。

引用を行う前には、必ず引用元の利用規約を参照し、詳細を確認しておきましょう。ルールに不明な点があれば、直接問い合わせて疑問を解消しておくのもおすすめです。

長々とした引用やコピペが明らかな引用、孫引きをしない

ブログでの引用は、記事全体の1割程度に抑えましょう。長々とした引用があると、引用ルールの附従性を満たさないと判断されやすくなります。引用に頼らないでも書きたいことが書けるよう、記事の構成や内容を工夫することも大切です。

コピペが明らかな引用は絶対にNGです。語尾や接続詞を少しだけ変えて「自作」を装っても、コピペチェックツールですぐに見抜かれます。そもそも、オリジナリティや新鮮さに欠けるブログ記事は、検索エンジンや読者からの評価も厳しくならざるを得ません。

既に他で引用されている文章を、原典を調べる手間を怠ってさらに引用する「孫引き」も極力避けることが大切です。直接の引用元が犯した引用の誤りはもちろん、引用行為自体の違法性についても、知らない間に引き継いでしまう可能性があります。

歌詞を引用する際はJASRACの許諾を得る

JASRACが管理している楽曲について、その歌詞をブログに引用する際には、JASRACの許諾を得る必要があります。

ただし、ブログサービスの事業者がJASRACと利用許諾契約を結んでいるケースでは、ブロガー自身による個別の許諾は不要です。利用するサービスとJASRACとの許諾契約の有無を必ずチェックしておきましょう。

SNSからの引用は埋め込み機能を利用する

X(Twitter)やYouTubeなどのSNSから引用する際には、SNSが備える埋め込み機能を使いましょう。他人が投稿したコンテンツの切り抜き画像やスクリーンショットをブログに直接張る行為は、著作物の改変として著作権侵害の責任を問われる可能性があります。

この点、Twitterでのスクリーンショット引用につき、その違法性を否定した近時の裁判例もみられます(知財高裁令和5年4月13日判決)。とはいえ、引用の適法性に関する具体的な要件が著作権法自体に明記されていない以上、本判断を一般化することはできません。

では埋め込み機能を使って引用すれば絶対に安心かというと、これも少し違います。ここで、埋め込みによる引用が適法とされる論拠をみておきましょう。

  • 投稿をもって、コンテンツに含まれる文章や画像の利用権はSNS側にも提供される
  • 埋め込み機能は、各SNSにより公式に提供されるAPIである
  • 仕組み上も、各SNSのサーバーを介してコンテンツを表示・掲載している
  • 埋め込みもSNS側の利用に準ずるものと解される

以上により、埋め込みによる引用は、著作権侵害に当たらないという訳です。

とはいえ、埋め込み機能の利用は、これらの論拠と各SNSの利用規約とが相まって確立された暗黙の推奨ルールに過ぎません。先のスクショ引用の場合と同様、適法性を示す直接的な根拠はなく、ブログでの利用の可否を個別具体的に判断すべきものと解されます。

SNSから引用する際に注意すべきことをざっくり言えば、次の通りです。

無断転載禁止を掲げるアカウントからの引用は、極力控えましょう。掲載前に投稿者の許諾を得ること、他人の著作物と明示して掲載することも大切です。

一方的に「フェアユース」を主張するのではなく、投稿者の意思に寄り添った、真摯かつ誠実な対応を心掛けましょう。

画像・動画の引用では公衆送信権や肖像権などの侵害にも要注意

画像や映像の引用で保護されるべき法益は、著作権法第32条1項が規定する3要件や確立している5つの引用ルールから直接導き出されるものだけではありません。

ここではその代表例として、公衆送信権、肖像権、パブリシティ権の3つをご紹介します。

  • 公衆送信権
    著作者が専有する権利です(著作権法第23条)。ネットを介した情報発信の容易化とともに、近時保護の必要性が特に高まっている権利の1つです。ブログに他人作成のコンテンツを無断でアップロードする行為は、送信可能化権(同条1項)の侵害となります。
  • 肖像権
    自身の容姿を勝手に撮影・公表されない権利です。判例上確立された権利であり、ネット上での画像の公開に対して、高額の損害賠償が認められたケースもあります。画像や写真のブログへの引用では、他者の肖像権を侵害しないよう気をつけることが大切です。
  • パブリシティ権
    肖像権同様、裁判で認められてきた権利です。ただし、こちらは著名人の氏名や肖像によって生じる経済的利益を本人が独占できる権利になります。肖像だけでなく、氏名やサインなども保護対象となるため、著名人に関するコンテンツの引用では、特に注意が必要です。

ライターやカメラマンとの間で著作権の所在をクリアにしておく

ブログでは、外部ライターやカメラマンに外注することもあるでしょう。その場合、記事の文章はもちろん、撮影された写真・画像なども、基本的に彼らの著作物となります。そのため、例えば画像を加工して別の箇所で使用したい場合には、撮影者の許諾が欠かせません。

こうした煩雑さを避けるためには、著作権を譲渡する、あるいは使用や編集を許可するなどの条項をあらかじめ契約書に盛り込んでおく必要があります。

とはいえ、こうした契約が成立すると、以後ライターやカメラマンが記事や画像を自身のために使用することが一切できません。そのため、最初は契約の締結を拒否される可能性が高いです。彼らとじっくり話し合い、著作権の所在をクリアにしておきましょう。

商品紹介に使う画像・写真の無断使用は控えよう

ブログで商品の紹介記事やレビュー記事を書く場合、その商品の画像や写真を載せることがあります。この場合、孫引きがNGなだけでなく、その商品を製造しているメーカーのHPから無断で引っ張ってくることもやめましょう。

無断使用したとしても、メーカー側が訴えない限り起訴には至りません。とはいえ、形式的には著作権を侵害しているとみなされても文句の言えない行為です。メーカー側の判断次第では、損害賠償を請求される可能性も出てきます。

一方で、自身が撮影した画像や写真であれば、著作権の侵害に問われることはありません。自前で用意できなければ、画像提供の可否をメーカーに問い合わせてみるのもおすすめです。商品を紹介するのに適したブログだと判断されれば、快諾が得られるでしょう。

アニメや漫画、映画のキャプチャ画像の無断転載もNG

アニメや漫画、映画などの静止画像や動画から取得したキャプチャ画像のブログへの無断使用も、極力控えましょう。ただし、著作権を有する公式サイトからルールを踏まえた適切な引用を行う限りにおいては、著作権侵害の問題は生じません。

これに対して、著作権侵害コンテンツをサイトに掲載している、海賊版サイトからの孫引きや転載は絶対にご法度です。

特に2021年1月施行の改正著作権法では、違法ダウンロードの規制対象が、漫画や写真を含む全ての著作物に拡大されました。違法アップロードと知りながらのキャプチャ画像の取得は、私的使用目的と言えども違法化されたため注意が必要です。

本や漫画、映画の引用ではネタバレに気をつける

本や漫画、映画などの作品内容を無断で転載・公開するブログが増えています。こうしたネタバレサイトが持つ違法性の程度は、実質的に海賊版サイトと変わりません。コンテンツが売れなくなり、クリエイターに正当な利益が還元されなくなる可能性が高いからです。

ただし、内容に触れていれば即著作権の侵害に問われる訳ではありません。感想やレビュー目的でコンテンツの一部を適切な形で掲載している場合には、著作権法が許容する引用行為として認められます。

そのため、著作権法違反になるか否かは、以下の基準を参考にしながら個別具体的に考慮されるのが一般的です。

  • 触れている内容の量的・質的な主従関係、必然性などの引用ルール全般
  • 著作権者側に予想される金銭的損害の程度とサイト運営者が上げた利益との関係性
  • 情報が拡散される範囲の広さ

海外サイトからの翻訳による引用は難易度が高い

海外のWebサイトに上がる記事を無断で翻訳のうえ、自身のブログで掲載・公開することは、原則として許されません。著作権法第27条が定める、原著者の翻訳権を侵すことになるためです。

ただし、これまでみてきた引用の要件やルールを満たしていれば、許諾を得ずに掲載しても著作権の侵害には当たりません(第47条の6第1項3号)。

ここで注意すべきは、引用のつもりで掲載したのに、結果としてトラブルに発展してしまう可能性があることです。

トラブルの多くは、誤訳によるものです。

原文が意図しない誤った情報が流布されれば、引用元である海外サイトのメディアとしての信頼性が損なわれるなど、多大な迷惑をかけてしまうことにもなりかねません。

また、誤訳により原文の意味や内容が一部であっても変わってしまえば、同一性保持権(第20条)の侵害として法的責任を問われる可能性も出てきます。

適切な引用に向けては、正確な翻訳に努めるだけでなく、独自取材を並行したり、同テーマの別記事との比較検証を経たりすることが大切です。

翻訳という新たなフローが加わる海外サイトからの引用では、情報を正しく伝えるための手間を惜しむべきではありません。

AI生成コンテンツがもたらす著作権侵害の可能性を知っておく

ChatGPTに代表される生成AIを活用したコンテンツ作成が、多方面で急速に浸透しつつあります。

ここでは、今後ブログへの引用に際して争点化する可能性がある「AIと著作権の関係」について、AIを活用する2つの段階に分けてみていきましょう。

AI開発・学習段階における著作物の利用と著作権侵害

ブログコンテンツ作成のために活用している生成AIに追加学習させたり、独自データに基づくファインチューニングを施したりするケースが増えています。この場合、他人の著作物を学習用データとして収集・複製する行為自体の著作権侵害性が問題となり得ます。

平成30年の著作権法改正により新設された法第30条の4によれば、その行為が単なる機械学習に留まる限り、著作権者の許諾なく実施しても著作権侵害には当たりません。

ただし、次に挙げる2つの例外があります。

①学習対象著作物の使用が「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的」とする場合、もしくは情報解析のような非享受目的とここに言う享受目的とが併存している場合

これらの場合には本条が適用されず、原則通り、著作権者の許諾を要します。本来著作権者だけが独占できる、著作物からの経済的利益を害する可能性があるからです。

文化庁の見解によれば、元コンテンツの「表現上の本質的な特徴」を感じ取れるような新たなコンテンツの作成を目的とする場合が、これに該当します。

とはいえ、一方では「表現上の本質的な特徴」を感じ取れるような著作物作成の”可能性”だけで学習段階における情報解析行為の享受目的を安易に認めるべきではない、とする見解も有力です。今後解釈が改められる可能性があることには、十分注意すべきでしょう。

なお、享受目的の併存により30条の4が適用されないケースであっても、47条の5の適用により情報解析に使われる著作物の「軽微利用」が許される場合があります。

②30条の4但書が定める、著作権者の利益を不当に害することとなる場合

この場合には本条規定の対象とはならず、当該利用行為は認められません。

例えば、情報解析用データベースとしてライセンスを得て市場に流通させている著作物に対する、許諾なき利用が該当します。

その他のケースについては、著作物の利用市場や潜在的販路との関係性を考慮しつつ、司法の場で個別具体的に判断されることになるでしょう。

AIによるコンテンツの生成・利用と著作権侵害

AIを使って生成した画像に対する著作権侵害性についても、先述の著作権侵害の要件で挙げた「類似性」と「依拠性」に基づいて判断されるのが原則です。

人がAIを使わずに絵を描いた場合と同様、既存著作物との間に類似性か依拠性のいずれかが認められない場合には、著作権者の許諾なく利用しても著作権侵害にはなりません。

一方で、類似性と依拠性の両方が認められる場合には、次に挙げる条件のいずれかを満たさない限り著作権侵害に問われる可能性が出てきます。

  • 権利者による許諾を得ている
  • 権利制限規定の要件を満たしている

AI生成画像のブログへの掲載に関しては、「私的使用のための複製」(著作権法第30条第1項)や「授業目的の複製」(第35条)などの権利制限規定の要件を満たすケースはほとんどないと考えられます。

そのため、類似性・依拠性が認められるケースでは、著作権者の許諾を得ない限りブログへの掲載は認められないでしょう。

生成されるコンテンツが文章でも、考え方は一緒です。

例えば、ChatGPTが出力する文章が既存著作物の内容と酷似するケースでは、ふつう依拠性も認められやすいでしょう。利用者がそのことを知らなかったとしても、著作権侵害が成立しやすいと言えます。

そのため、ChatGPTでチェックにかけるなどして酷似性が明らかになった生成文章については、全く異なるものになるようリライトしたうえでアップするか、そのまま載せるのであれば著作権者の許諾を得るなどの対応が必要です。

こうしてみると、引用が直接問題となるケースはそう多くないかもしれません。しかし、例えば、引用部分と生成AI利用部分とが混在するケースは十分想定できます。この場合、両者を峻別して掲載することで、著作権侵害の誤解を解く役に立つのではないでしょうか。

AIによるコンテンツの生成や利用は、今後多方面でさらに増加していくことが確実です。上記を基本としつつも、クリエイターら既存著作物の著作権者とAI利用者双方の本来有すべき権利が尊重されるような、個々の判断の積み重ねとルールの精緻化が求められます。

引用のすべては著作者への敬意に始まり敬意に終わる

最後に、本コラムがテーマとする引用が拠って立つルールである、著作権法の目的を見直してみましょう。

著作権法の目的は、第1条に掲げられています。そこでは、著作権法に定められた著作者が持つ各権利の保護とそれら権利の公正な利用とを両立させながら、文化の発展への寄与を目指すことが記されています。

引用とは、まさにこの文化の発展への寄与を念頭に、著作権法上に置かれた例外規定に他なりません。メリットがあればこそ許されている訳ですから、本来自由であるべき著作者の著作物に対する利用権の制限はできるだけ抑制的であるべきなのは当然です。

たとえWebで簡単に手に入るフリー素材であっても、「コンテンツへのただ乗り」を当たり前と考えるのはいただけません。引用による新たな価値の創造は、クリエイターの技術や創造性の結晶である、著作物あってのことだからです。

要は、「引用する際には著作者への敬意を欠かさないようにしましょう」という話です。

許諾なしに利用できるという引用の仕組みが、著作者に対する敬意を抱き難くさせている面は多々あるでしょう。しかし、敬意なき引用は、例えば違法アップロードのように、法が意図する文化の発展への寄与とは真逆の結果をもたらしかねません。

著作者への敬意こそが、著作者が本来有する権利をなおざりにしない、適法な引用行為の基盤になります。そして、そうした引用は引用者自身のプラスになるだけでなく、著作者にも新たな収益性や権威性の向上というメリットを授ける可能性があるものと言えるでしょう。

「引用のすべては著作者への敬意に始まり敬意に終わる」、引用を行う際には、常にこのことを意識しておくことが大切なのではないでしょうか。

まとめ

引用は、他人が成した著作物の許諾なき使用を原則として認めない著作権法において、例外的に許される行為の1つです。法が規定する引用要件や判例によって示された引用ルールに則って行われる限り、著作権侵害の法的責任を問われることは基本的にありません。

とはいえ、こうした要件やルールの中身については明文化されていない部分も多く、過去には適法性判断における解釈上の困難さを伴うケースも少なくありませんでした。

将来に目を向けても、AIによる生成コンテンツの増加とともに、引用ルールの法的な扱いや守るべき法益の姿も少なからず変わっていくことが予想されます。

こうした変化の激しい時代に引用を行うにあたっては、法や判例が示す要件やルールを遵守するだけでなく、あなた自身はもとより、周囲に対していかなる寄与や便益をもたらすのかといった、三方よし的な視点を持つことも大切になってくるでしょう。